【店部推薦図書37】「酒に生きるおやっさん」佐々木久子(鎌倉書房)



その生涯を酒と広島カープに捧げ、生涯を独身で通した佐々木久子。
1955の創刊から42年間にわたり編集長をつとめた雑誌「酒」は501号まで発刊。文壇にも愛されたこの雑誌は、グルメブーム由来のそれらとは、あきらかに一線を画しておりました。

本書は全国の杜氏20人以上を取材し、まとめたものです。
非常に誠実な内容で、この1冊だけでも、佐々木久子の酒に対する思いがビシバシ伝わってきます。とにかく、まじめに酒が好き。
読んでみて「なんか地味だな」と思うのは、企業、経営的な話題が多いからかもしれません。しかし、そもそも酒造というのは、設備も巨大、規模の大きい事業で、こじんまりした手作りの。みたいなところからスタートするわけではないのです。

偶然にも杜氏ブームを巻き起こしたマンガ、「夏子の酒」連載開始とほぼ同時期にこの本は書かれています。
さわやかな女子のサクセスストーリーに比べると、「開墾」レベルの歴史的壮大さもある「おやっさん」の話は、やや重量感がありすぎるかもしれません。

生真面目にそんな「おやっさん」の事実関係を整理し、現状分析にも余念がない作者ですが、基本すべて「いい話」になっています。過剰に人間ドラマを演出することはありませんが、どの杜氏のお話もじんわりとくる、いい話。

対象への愛情がなければ、こんな本は書けないでしょう。

今は、「嫌いなもの」で自分を語る人が多い気がします。
ネットには不平不満があふれており、誰もが重箱の隅をつつくのに必死になっています。目にふれる世界がそうであれば、ネガティブな感情で自分を表す方に馴染んでしまうのは、致し方ないのかも知れません。

ひたすら「好きなもの」に生き、死んだ、佐々木久子の偉大さが身にしみます。

290円で販売中。