【店部推薦図書36】「ショートカット」柴崎友香(河出書房新社)



柴崎友香は1973年生まれ、1999年「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」が「文藝別冊J文学ブックチャートBEST200」に掲載されデビューしました。

本書は「ショートカット」(「文藝2003年夏号」掲載)「やさしさ」(「文藝2004年夏号」掲載)「パーティー」「ポロライド」(どちらも書き下ろし)で構成された連作です。

四作はすべて主人公(20代と思われる女性)の一人称で書かれており、完全に独立した話というわけではなく、少しつながりがあります。


「なあ、おれ、ワープできんねんで、すごいやろ?」


表題作「ショートカット」はこう始まります。

主人公(女性)は、合コンでの席、ワープできると話す男(なかちゃん)と出会います。その男は恋をしており、会いたいと思った女性のいる場所(表参道)にワープしたと言います。


「一年ぶりに見たその人は、ほんまにかわいかった。涙が出るほどきれいやった。」


「すごいわ、ほんまにすごい。そんなのあるんや」


主人公は何の疑問も持たず、そう語り、自らもこのあと表参道にワープしてしまいます。
ワープの話をした男、なかちゃんと携帯電話で話しながら歩いていると、主人公はなかちゃんの好きな女性を発見します。


「なかちゃんの好きな人がおる。目の前にいてんねん。長い髪の、水色のワンピースの、きれいな人」


「そうか。それはあの人や。なにしてる?」


「えっと、携帯のメール読んでるみたい。ほんで、・・・・・・なんか、うれしそう」


「・・・・・・そうかそうなんや、よかった」


「ワープ」という、やや突拍子もない現象が出てきますが、不思議とそのことはほとんど印象に残らず、不確かであやふやな、人と人との間にある時間と距離。その隔絶された関係のせつなさが強く伝わってきます。

この作品集は、人の関係も想いも、どこかちぐはぐで、断片的な時間、感情がたゆたうだけのようにも思えます。

例えば、大好きな人(そこに恋愛感情はなくとも)がコーヒーをいれている姿をみて、ふっとわきあがる「これは永遠ではなく、いつか終わる」というせつない感情。
それは断片的なものなので、放っておけば消えてしまうものでしょう。しかし、人は何げない会話や光景から、どうしようもなく、何らかの、思いがけない感情でいっぱいになってしまう瞬間があります。

柴崎友香の作品は、そのような「せつない断片」にあふれています。

その断片は日常を浮遊し、現れては、消え、しっかりと手に取ることができない。それはつまり、どんなに相手を強く想っていても、手の届かない場所があることを意識する瞬間でもあります。

やはり、柴崎友香の作品はせつないのです。

200円で販売中