【店部推薦図書20】「南方熊楠男色講義 岩田準一往復書簡」長谷川興蔵・月川和雄編(八坂書房)



前回に続き、書簡もの。
簡素ですが、漆黒の中から血がにじみ出るような装丁が素晴らしいです。

冒頭に稲垣足穂「南方熊楠児談義・はしがき」が置かれ、後ろの江戸川乱歩「同性愛文学史・岩田準一君の思い出」にはさまれるかたちで、本編である書簡が掲載されています。
役者もそろい、構成も文句なしです。
 
岩田準一(以下、岩田)は1900年生まれの風俗研究家で「男色(同性愛)」の研究をライフワークにした学者です。南方熊楠(以下、熊楠)は、1867年生まれの博物学者、風俗学者。「歴史上の人物」界でもトップクラスのイケメンぶりで、その姿をご存知の方も多いでしょう。
岩田が昭和5年、雑誌「犯罪科学」に発表した「本朝男色考」「室町時代男色史」に熊楠が感心して書簡を取り交わし始めたのが昭和6年。以来、両者は10年の歳月をかけて「男色」についての文通を続けます。
 
多くの熊楠研究者が彼の真髄は書簡にあると言います。確かに、ここでは圧倒的な知識による古今東西の同性愛、稚児愛(ショタコン)が、めまぐるしく展開していきます。

一方、岩田も負けていません。互角にがっつり組み合います。
芭蕉の同性愛趣味、源氏物語の光の君の性癖、ペルシア神話、仏教密教、ギリシア古代哲学から武士道精神まで。博覧強記の応酬。よくもここまで、と感服します。
「男色」に興味のある方は必読文献といっていいでしょう。

そして、二人がここまで文通を続けられたのは、絆、同士意識が相当強かったからではないかと考えています。
同じ趣向をもつ同士ならではの、コミュニケーションのカタルシス。それは、女子学生の恋愛談義と大きな差はないのかも知れません。
熊楠は往復書簡のはじめあたりで、岩田の文章を受けこう書いています。

「御来示の通り、浄愛(男道)と不浄愛(男色)は別のものに御座候」

熊楠と岩田(そこに稲垣足穂と江戸川乱歩を加えても良いですが)、彼らの興味はもっぱら「不浄愛(男色)」の方にあります。趣味、しかも性欲を伴わない高級な趣味としての「同性愛(男色)」。
それは「友情」を相対化し、不浄なゆえ清いもの(欲情)に憧れ続ける。奇妙なもの。

ちなみに両者とも妻があり、子供をもうけています。

本書は男色というユートピアにに魅せられ、とりこになった男たちの「饗宴」といえます。

2100円で発売中。