【店部推薦図書19】「芭蕉書簡大成」今栄蔵編(角川書店)



俳句は「モノローグ(独白)」ではなく「ダイアローグ(対話)」です。
和歌なども対話の手段です。日本詩歌はそのように進化し、発展してきました。

そのことを、手っ取り早く実感するには「歌合せ」「句会」に出席すればよいのでしょうが、この書簡(手紙)からも芭蕉文学の本質といえる「対話」が見えてきます。

「対話」とは何ぞや?
一言でいえば「ボケとツッコミ」があるということです。

この書簡集では芭蕉、ボケにボケています。しかも天然ではなく用意周到に考えつくしたインテリ・ボケ。
例えば菅沼曲水に会いたかったが、会えなかった際の、曲水あての書簡。

百 年 の 気 色 を 庭 の 落 葉 哉
(ももとせのけしきをにわのおちばかな)

とした挨拶句で結ぶあたり。なんとなくオフビートで、粋なギャグセンスを感じます。
本書には書簡を送られた人の返信が収録されていないのですが、きっと受け取った人は、より周到な「ツッコミ」を返したことでしょう。
「わかっているもの」同士のボケとツッコミ、対話の断片が、「候文」と呼ばれる、やたらかっこいい文語体で記されています。
ちょっと読み慣れるのに時間はかかるでしょうが、詳細な注釈があるので大丈夫です。

俳句などの詩歌にかぎらず、「詩」であれば、それは鑑賞目的に存在するのではなく、人と人をつなぐためにあるのだと思います。
もっといえば、「詩」ですらない「対話」のための表現(言葉)が、誠意をつくした、美しいものであれば、それはそのまま「芸術」になり得るのかもしれません。

860円で発売中。