【店部推薦図書14】小林美代子「髪の花」



「母上様、三回目の手紙をさしあげます」から始まるこの小説は、昭和46年(1971年)群像新人賞を受賞しました。

この小説を知ったきっかけは作家・中上健次がお勧めブックリストで取り上げていたからです。
小林美代子は1917年生まれ、自らの精神病院体験を書いた本書「髪の花」で群像新人賞受賞、その後、自伝的小説「繭となった女」で高い評価を得ますが2年後の1973年に東京都三鷹市内の自宅において睡眠薬自殺。享年56歳。

この本には「批評集」冊子が付いており、江藤淳、大江健三郎、野間宏、安岡章太郎、秋山駿、磯田光一、柄谷行人らの選評、書評が収められています。内容はそれぞれといえばそれぞれですが、やはり精神異常・狂気・社会という軸があるように思います。が、どの評も何かしっくり来ないものを感じます。

おそらくそれは、この作品が不思議なほど健全に「あちら側を小説している」せいでしょう。狂気を売物にしている原民喜の「夏の花」という傑作小説は「あちら(狂気)」と「こちら(正気)」を病的なまでに意識したことにより生まれた傑作でしたが、小林美代子はそれと比べると無頓着すぎます。その無頓着な人が小説を書く動機は何なのかがわからない。

彼女の作風に実は大変似た作家がいます。
石原慎太郎です。
中上健次は小林美代子と石原慎太郎を恐れていたのではないかと思っています。石原慎太郎の小説の頭の悪さとそれへの無自覚(当時、江藤淳は「太陽の季節」を「無意識過剰」と評したそうです)。彼の小説は「こちら(正気)」に無頓着すぎるのです。その図々しさに中上健次は敵わないと思っていたのではないでしょうか?

もし文字を読むのが正気な行為だとするなら、文字を書く(伝達する)という行為も正気なものであるはずです。「髪の花」はその常識の中に納まらないパラドキシカルな書物。読むという行為がここまで試される本も珍しいといえます。
 
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